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特集

ああ粉ふき芋(5ページ目)

(2013年5月2日)

1ページ目2ページ目3ページ目4ページ目からの続きです。

平成3年・平成4年の粉ふき芋

『小学校 わたしたちの家庭科 6』表紙

平成に入ると、教科書の版型が大きくなった。開隆堂の『小学校 わたしたちの家庭科 6』[35]に掲載された粉ふき芋を見てみよう。

粉ふき芋は依然としてトップに掲載されているものの、ほかに「ポテトサラダ」や「カレーいため」が同じ大きさで載っている。ここに来て、バリエーションが格段に増えた。

『小学校 わたしたちの家庭科 6』より

そして、注目すべきは目玉焼きとのセットではなくなっていることである(代わりに、魚や肉の加工品料理の項が加わる)。長年の慣例から抜け出したかのようだ。

しかし、よくよく見てみると、粉ふき芋の「応用」として以下の様な文言が小さい字で加わっているのである。

[応用]
●きざんだパセリやスイートコーンのかんづめを加えると,色どりがよくなる。
●目玉焼きや、たまご焼きにそえてもよい[36]

目玉焼きはこんなところでまだ生きていた。完全に抜け出してはいなかったのだ。教科書を変えるというのは大変なことなのだろう。

『小学校 わたしたちの家庭科 6』より

さて、同時期(平成4年)の東京書籍『新しい家庭 6』[37]には、目玉焼きの痕跡は無かった。「実習例1」が「こふきいも」、「実習例2」が「じゃがいものにもの」である。またここでも「参考」として「ポテトサラダ」と「バターいため」が掲載されており[38]、ポテトサラダが地歩を固めてきたようである。

平成13年の粉ふき芋

10年後、教科書はどうなったのか。東京書籍の『新しい家庭 5・6』[39]を見てみたが、粉ふき芋が依然としてトップに掲載されていた。

『新しい家庭 5・6』表紙

粉ふき芋と同時に掲載されているレシピは「マッシュポテト」、「じゃがいものきんぴら」、「チーズ味のベーコンポテト」である[40]。ジャーマンポテトへの布石が置かれているかのようだ。

『新しい家庭 5・6』より

平成17年の粉ふき芋

そして今から8年前、平成17年に出された東京書籍の『新編/新しい家庭 5・6』[41]では、ついに粉ふき芋の姿が消えた。

『新しい家庭 5・6』表紙

掲載されているレシピは「ポテトサラダ」「ちくわのピカタ・ピーマンとじゃこのいため物」。そして「その他の料理の例」として「ジャーマンポテト」「和風スパゲッティ」「ソーセージと野菜のトマト風味のいため物」が加わる。

『新しい家庭 5・6』より
ここでジャーマンポテト登場[42]

しかし、である。ポテトサラダのレシピの中に、芋の粉を吹かせる手順が残っているのだ。その脇にはまた小さな字で、以下の様に書かれている。

手順⑦のじゃがいもを,塩・こしょうで味つけすると,粉ふきいもとして,おいしく食べられるよ[43]

粉ふき芋の存在が全く消えていたわけではなかった。目玉焼きの例と同じで、徐々に消えていくのである。そして、1ページ目で見たとおり、現在の東京書籍の教科書に粉ふき芋の姿はない。

『新しい家庭 5・6』表紙

ここまで見てきたように、家庭科教科書「調理実習」の世界では「目玉焼きと粉ふき芋」の長い時代があり、そこから徐々に料理のバリエーションが増え、平成に入るとその傾向が顕著になるようだ。それとともに、粉ふき芋は少しずつ、ポテトサラダやジャーマンポテトに移行しつつあるのかもしれない。

不思議なメニュー・粉ふき芋。これからどれくらいのあいだ残るのだろうか。

まとめ

拙い上に長いテキストをお読みいただいてありがとうございました。調べ物としては中途半端ですが、ここで無理矢理にまとめておきたいと思います。

▼明治5年には、既に粉ふき芋らしきレシピが紹介されていた。
▼大正から昭和初期には「粉吹煮」「粉ふき芋」の名前が使われるようになっている(調べればさらに早い例があるかもしれない)。
▼家庭科教科書では「目玉焼きと粉ふき芋」が長い間定番だったようだ(もっと古い教科書や学習指導要領などを調べる必要がありそうなので、課題としたい)。
▼いま、調理実習の世界は、粉ふき芋からポテトサラダやジャーマンポテトの時代に変わりつつあるのかもしれない。
▼「割烹着」で検索しても、やはりアマゾンの広告が出る。

終わりの挨拶
お粗末様でした

追記(2013年5月12日)

その後、古い『学習指導要領』と『小学校家庭指導書』を見る機会があったので追記しておきたい。

昭和33(1958)年に発行された『小学校 学習指導要領』の家庭分野「食物」の項には、「ごはん,みそしる,目玉焼,こふきいも,サンドイッチ程度の簡単な日常食の調理を実習させる。」とある[44]。粉ふき芋がオフィシャルに掲載されていたことが判明する。

また、昭和35(1960)年に発行された『小学校家庭指導書』では、「調理実習」の項で、もう少し詳しく粉ふき芋について述べられている。

 粉ふきいもの材料であるいも類は,炭水化物を主とするもので,副食にも大いに利用させる上で,この教材を取り上げたのである。調理のしかたとしては単にゆでるだけでなく,調味をして粉をふかせるしかたを取り上げたのである[45]

と、粉ふき芋を取り上げた理由が書いてあった。まだまだ不十分だが、取り急ぎ追記させていただく。

(おわり・注はこちら

 

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作成:とね(info アットマーク yuzamashi.net)