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特集

ああ粉ふき芋(2ページ目)

(2013年5月2日)

1ページ目からの続きです。

図書館へ

国会図書館前にて

不思議な存在・粉ふき芋の情報を求めて図書館にやってきた。ここから、明治以降の粉ふき芋の歴史を駆け足でたどってみることにしたい。※読むのが面倒な引用(橙色の太字)が続きますが、適宜読み飛ばして下さい。

明治5年の粉ふき芋(?)

『西洋料理指南』表紙

今回見つかった中で最も古い本『西洋料理指南』[5]。明治5年といえば、新橋-横浜間に鉄道が開通した年だ。140年前の料理本だが、早速「野菜」の項に粉ふき芋らしきものを発見した。

『西洋料理指南』より

皮ヲ去リテ煮、水分ヲ能ク駆(カツ)テ塩ヲ入レ、其器ヲ振(フルツ)テ塩ヲシテ薯(イモ)ニ附着セシメ、又火ニ上セルコト暫時ナリ[6]

レシピもシンプルで料理名が書かれていないため何ともいえないが、鍋を振る料理法はまさしく粉ふき芋のそれだ。「粉ふき芋」という名前ではないにしろ、既にこの料理法が紹介されていることが判った。

『西洋料理指南』より
食卓の様子を描いた図版も面白い

明治19年の粉ふき芋(?)

次に、明治19年発行の『手軽西洋料理』[7]を見てみよう。

『手軽西洋料理』表紙

著者はクララ・ホイットニー。若くして来日し、勝海舟の息子と結婚したクララ・ホイットニー・カジ(『クララの明治日記』で名を知られる)と同一人物だろうか。

ともあれ、今は粉ふき芋探し。「野菜の部」に「芋の煮附」として掲載されていた。

○芋の煮附     Boiled Potatoes.
芋の皮を剥ぎ、鍋に入れ、水を芋より少し多く入れて、柔らかくゆで、皿に取り、塩及び胡椒少し斗(ばか)りを振掛け、鍋にて震る可し[8]

芋の煮付けというと粉ふき芋から遠い感じがするが、レシピはまさに粉ふき芋。そしてBoiled Potatoesという英語が添えられていることから、 その翻訳であることも判ってきた。

明治26年の粉ふき芋(?)

『家政学』表紙

下田歌子氏の『家政学』という本[9]にも、粉ふき芋らしきレシピを発見。著者は女子教育で著名とのこと。早速見てみよう。

馬鈴薯の皮を剥き、能き程に切り、水に漬け置き、塩瀹でにして、湯を絞り、薯のみを鍋に入れて、瞬時(ちよつと)、火にかけ、鍋を蓋ながらふり。粉の吹きたるを見て、

ここまで見ると、(お、粉ふき芋ではないか)と思うのだが、文章はまだ続く。

粉の吹きたるを見て、裏漉にかけ、鍋に、牛酪、少しを溶かし置き、薯と、食塩と、胡椒と、少しづゝを入れ、沸かしたる牛乳を、度々にさし、練りて附け合すなり。[10]

これは…、マッシュドポテトだ。ともあれ、はじめて「粉ふき」についての記載があって嬉しくなった。鍋をゆすぶる調理法は、続々と紹介されているのだ。

明治38年の粉ふき芋

さて、続いてご紹介するのは「割烹専攻家 藤村棟太郞先生」の書いた『家庭西洋料理法』[11]。高価な器具や長い時間を必要としない、家庭でもできる西洋料理法を掲載した本だそうだ。

『家庭西洋料理法』表紙

粉ふき芋らしきレシピは、「附合せ蔬菜」の項に掲載されている「煠馬鈴薯」。その製法はいかに。

煠馬鈴薯(ゆでばれいしよ) これを製するには、其の法二種あり。一は初めより成るべく皮を薄く剥き、これを直ちに塩煠(しほゆで)になすべし。而して其の充分に煠だりたるに際し、鍋の湯を残らず捨て、唯、薯のみを鍋に入れて、再び弱き火上に掛け、少時其のまゝに放置するときは、残れる水は、概ね蒸発して、薯は其の外部に水気を留めざるに至るべし、是に於いてか、鍋に蓋をなし、其の蓋を隻手(かたて)に押さへながら両手に持ち、激しく振り動かすときは、薯は、鍋の中にて、互に擦れ合ふものなれば、外周一面には、白粉(はくふん)を吹きたるがごとくなるに至るべし、これを其のまゝ用ふるも可なり。[12]

引用が長くなったが、「外周一面には白粉を吹きたるがごとく」とあるように、これはまぎれもなく粉ふき芋であろう。しかしまだ、「粉ふき芋」という名称は使われていない。

そして、最初に紹介した明治5年の本に比べてみると、レシピがだんだんと詳細になってきているのが判る。

明治39年の粉ふき芋

上記『家庭西洋料理法』の翌年、明治39年に発行された『家庭実用/いも一切料理法』[13]も、先ほどと同じ藤村棟太郞氏の著作。さつまいも、里芋、山芋、じゃがいもなど、いも料理ばかり266種類紹介してある本だ。

『いも一切料理法』表紙
表紙の人の表情が味わい深い

これだけの数が紹介されていながら、目次を見ても粉ふき芋の文字は見当たらない。しかし、馬鈴薯料理の項を読み進めると、最後の方に「ぼーいろ芋」という料理が見つかった。紹介されているレシピを引用してみよう。

二六五 ぼーいろ薯
馬鈴薯を洗ひ、皮のまゝ湯煮(ゆに)をなし、直ちに皮を剥き、再び沸湯(にえゆ)の中に入れて、ざっと煮揚げ、其の湯を捨て、少しも余滴を残さゞる様になし、此の中に食塩を振り掛け、鍋を両手に待ち〔原文ママ〕、搖り動かして、塩を全帯〔原文ママ〕に行渡らしむべし。而して野菜の代用として『ビーフステーキ』に附合はすべし。[14]

これも、粉に関する記述はないものの、やはり粉ふき芋であろう。付け合わせにする対象が「ビーフステーキ」のみであるのが面白い。「ぼーいろ」は、あるいは「ボイル」であるかもしれないが、今となっては不明である。あるいは西洋人から直接聞き書きしたのかもしれない。

もう少し続きます

ここまで色々とご覧頂いてきたが、じゃがいもを切れという指示があまり見当たらないのが不思議なところ。丸のまま供していたのだろうか。

そして、「粉ふき芋」という名称がまだ登場していないのも気になる。もう少し続けて見ていきたい。

bぼーいろ芋
興奮していっぱいコピー

 

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作成:とね(info アットマーク yuzamashi.net)